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福岡高等裁判所 昭和42年(ネ)296号 判決

控訴人

国鉄労働組合大分地方本部

代表者

鈴木一馬

訴訟代理人

大野正男

外三名

控訴人

大分県労働金庫

代表者

荒木俊英

訴訟代理人

吉田孝美

被控訴人

新国鉄大分地方労働組合

代表者

甲斐信一

訴訟代理人弁護士

安部万太郎

外一名

主文

原判決中控訴人ら敗訴の部分を取消す。

被控訴人の請求を棄却する。

訴訟費用は第一、二審とも被控訴人の負担とする。

事実〈省略〉

理由

(一)  本件預金等の債権が従前国鉄労働組合大分地方本部の構成員の総有に属したものであること、従つて被控訴人が同地方本部とは別個の組合員団体から右債権を承継取得したとする被控訴人の主張は理由がないこと、および被控訴人がもとの大分地方本部の改組によつて生まれた組合で前後同一性を保持するものであり、そうでないとしても有効な大会決議により本件預金等の債権を適法に承継したものである、との主張がいずれも理由のないこと、に関する当裁判所の判断は、原判決一〇枚目表一一行目から一七枚目裏末行までの説示と同一であるからこれを引用する。ただし一六枚目裏四、五行目に掲げられた排斥すべき資料に「当審証人木村吉満、同池辺睦男、同西林幸人の証言」を加える。

(二)  被控訴人は、またもとの大分地方本部は被控訴人と控訴人大分地方本部との二組合に分裂消滅したもので、被控訴人は本件預金債権等につきその全額ないし構成組合員数に応じた部分を取得したとも主張する。

しかしながら、前認定の事実関係からすると、従前一個の社団としての国鉄労働組合大分地方本部を構成していた組合員が事実上二派に分かれ、同地方本部が集団社会現象として二個の社団に分裂したことはこれを肯定しなければならないが、現在の国鉄労働組合大分地方本部(控訴人組合)が大分鉄道管理局管下の国鉄労働者のうち従前から国鉄労働組合に属していた組合員らによつて従前からの国鉄労働組合規約および大分地方本部規約に基づき組織運営されているもので、右にいう分裂により旧構成員および役員の多数を失つたとはいえ、解体崩壊の危機を克服し組織をたてなおして今日に至り前後国鉄労働組合の地方下部組織としての同一性を保持していることは、これを否定することができない。反面被控訴人新国鉄大分地方労働組合を結成して旧大分地方本部構成員はその数が残留者をこえ全体の約三分の二に及ぶ多数に達し、且つ〈証拠〉によつて認められるとおり、地方本部を挙げて組織ぐるみ国鉄労働組合から離脱するという意図をもつて脱退届を通常の場合の提出先である地方本部でなくことさら直接本部宛に一括郵送する方法をとつているとはいうものの、前認定の事実関係からすると、結局のところ国鉄労働組合本部の運動方針にあきたらず離脱を申し合わせて集団脱退したものと認めざるを得ない。

そうすると、これら脱退組合員は当然には組合財産につき持分ないし分割請求権を有するものではなく(最高裁判所昭和二七年(オ)第九六号昭和三二年一一月一四日判決参照。)被控訴人に大分地方本部の財産全部を承継せしめる旨の適法な組合大会決議がなされた事実を肯定し得ないことは前記のとおりであるから、脱退組合員らにより組織されたにすぎない被控訴人が本件預金等の債権につきその全部または一部が自己に帰属すると主張し得る根拠は何ら存しない。

労働組合が事実上分裂したときは分裂によつて生じた各組合に組合財産につき持分ないし分割請求権を認むべきである、とする説があるけれども、労働組合も労働法上ないし一般公私法上の権利義務の集中帰属すべき法主体であつて、その性質から考えても、また労働者の団結の擁護を旨とする労働組合法の精神からしても、一般の法人ないし社団と区別し、特に労働組合にかぎつて分裂という名の無方式の法主体の分割を肯定する理由は見出しがたく、これらの説も具体的に単なる集団脱退と分裂とをいかなる点で区別し、いかなる時点をもつて分裂の効果発生時とするのか、分裂による組合財産(特に消極財産たる債務)の分割承継の関係を他の法概念との関連においてどのように構成するのか、等の諸点について明確を欠き、にわかに賛同することができない。

(三)  よつて被控訴人の請求は全部その理由がないものというべきところ、右と趣旨を異にしその一部を認容した原判決は不当であるから同部分を取消して該請求を棄却することとし、訴訟費用の負担につき民訴法九六条、八九条を適用して主文のとおり判決する。(池畑祐治 蓑田速夫 権藤義臣)

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